夜と霧になれ アウシュヴィッツ強制収容所

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近代ヨーロッパ史上最悪の悲劇、アウシュヴィッツ強制収容所に行きました。

第二次世界大戦時、ナチスドイツがポーランドを占領し、アドルフ・ヒトラーの命令の元で強制収容所を建造しました。選民思想を持つヒトラーはアーリア人を優れた種族、ユダヤ人を劣等種として、ヨーロッパ中からユダヤ人や政治犯を集めてこの強制収容所で処刑していました。

現在でもハーケンクロイツやナチスドイツ式敬礼は欧州ではタブーとされており、2013年3月、試合中にナチス式敬礼を行ったとしてギリシャのサッカー選手が永久追放されています。

あまりにも悲惨な出来事があると、人は目を背けたくなるものですが、1979年に、二度と同じような過ちが起こらないようにとの願いをこめてユネスコの世界遺産委員会がこのアウシュヴィッツ強制収容所を世界遺産に登録しました。

2012年の暮れ、アウシュヴィッツに行って感じたことを思いだしてみたいと思います。

「夜と霧になれ、誰の目にも映らないように」とはワグナーの「ラインの黄金」第三場「ニーベルハイム」からの引用で、ワグナーを愛聴していたヒトラーはこのセリフから総統命令「夜と霧」を発令し、ナチスに反対意見を唱えるものを密かに連行していました。また、強制収容所経験を基に書かれたヴィクトール・フランクルの同名の小説「夜と霧」は全世界でロングセラーとなっています。

12月25日。クリスマスでにぎやかだったプラハから夜行列車に乗って、ポーランドのクラコフに着いたのが、翌26日の早朝6時ごろでした。

カフェも開いておらず、始発もまだ出ていない薄暗い駅の券売所でタクシーの運転手だと言う小柄な老人に声をかけられました。彼は英語で、アウシュヴィッツに行くならタクシーを出すと言ってきました。こちらは一人だし、警戒心もありましたが、以前知り合いも同じように声をかけられてタクシーでアウシュヴィッツまで行ったと聞いていました。電車で行くよりはだいぶ高額でしたが、知り合いの支払った金額とそう変わらないため、彼の車に乗ることにしました。

クラコフの滞在予定時間はせいぜい12時間程度しかなかったため、時間をお金で買ったかたちです。

PC267554アウシュヴィッツ強制収容所は、オフィチエンチム市郊外に建造されており、クラコフ駅からは電車かタクシーで行くことになります。

早朝のアウシュヴィッツは小雨が降って薄暗く、観光客も私一人でした。

好き好んで小雨の降るクリスマスの次の日の早朝にアウシュヴィッツに来るような物好きは私くらいなのでしょう。

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正門にアーチがあり、ARBEIT MACHT FREI (働けば自由になる)と掲げられています。Bの文字が、よく見ると逆さまになっているのはこれを作らされた

作業者のせめてもの反抗だったという説がありますが、単にこのかたちのフォントが当時はやっていたという説もあります。僕は前者の説の方が人間らしくて好きですが。

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中は、何棟か煉瓦作りの無骨な建物が並んでいます。そのひとつひとつが展示室になっており、実際に中に入って見学することができます。

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素っ気のないドアから建物に入ります。中は薄暗くて寒く、かび臭かった記憶があります。

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展示のひとつ。ヨーロッパ中から強制収容所に人が集められていたことがわかります。

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実際の写真です。女性も子供もポーランドに向けて移動して行きます。説明も裁判もない処刑、あるいは果てのない強制労働がその旅の結末でした。

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映画ライフイズビューティフルにも登場する、「死の壁」です。ここに囚人が並ばされて銃殺されました。コンクリートは銃弾でえぐれています。

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ホロコースト(虐殺)に使用されたとされる毒ガス、チクロンBです。熱すると青酸ガスが発生します。

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囚人の眼鏡です。おびただしい量の遺留品は、他にも、鞄、靴、服、髪の毛、などがありました。

布として加工されるために刈り取られた髪の毛にはファインダーを向けることができませんでした。

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柵には常時220Vの電流が流れていたそうです。
 
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この負の遺産はポーランドだけで運営しているわけではありません。ナチスドイツが占領し、悲劇の舞台になった欧州の各国はこの収容所を保存するために出資し、展示室を設けています。モスグリーンの壁面に美しいデザインの展示はフランスの出資で実現した展示室だったと思います。パリは占領されていたのです。
 
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囚人たちが、「シャワーを浴びる」と言われ、連れていかれた先はこのガス室でした。
 
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そうして亡くなった遺体は隣接する焼却炉で焼却するのでした。
 
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さらに車で数十分のところに、アウシュヴィッツ第二強制収容所があります。より広大な土地に囚人たちの宿舎がそのままのかたちで残されていました。
 
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暗く、冷えきった寝室。乾いた藁の上で寝かされていたそうです。囚人たちは家畜と同じに扱われていました。
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囚人たちを焼いた焼却炉。

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アウシュヴィッツは効率的にユダヤ人を殲滅するための施設です。効率よく殺し、効率よく埋葬するためにナチスドイツの秀才たちが叡智を出し合っていました。

フォルクスワーゲン、アウディ、ベンツ、シーメンス、枚挙にいとまがないほどの巨大企業を持ち、独創的で優れた技術を生み出し続けるドイツになぜナチスという党が発足し、民衆の支持を得たのでしょうか?欧州では腫れ物にさわるかのようにこの問題を扱います。

古代ローマ時代より、ユダヤ人は特殊な存在でした。自分たちの国を持たず、ユダヤ教を厳格に信仰します。他国に住んでも、その国に迎合しようとせず、自分たちだけでコミュニティを作ります。例えば、古代ローマ時代は「血の税」として兵役が成人男性に課せられるのですが、宗教上の理由からユダヤ人は兵役を免除され、そのかわりにユダヤ税として税金を支払っていました。地元の住民、とくにギリシャ人との軋轢が絶えず、小競り合いが各地で起こっていたそうです。

また、不思議な符合ですが、ユダヤ教にも選民思想があり、ユダヤ人のみが救済を受けることができるとして、現代でもユダヤ教は閉鎖的な宗教として知られます。アメリカのドラマ、「セックスアンドザシティ」でシャーロットが恋人のハリーに合わせてユダヤ教に改宗しようとユダヤ教会の門を叩きますが、冷たくあしらわれてしまいます。シャーロットは憤慨してそれをハリーに伝えると、あっさりと「古い習慣なんだ、改宗希望者は3回は断られる」と言われています。

言葉は悪いですが、さしずめ彼らは「何を考えているかわからない不気味な同居人」といったところでしょうか。

加えて、ユダヤ人はまともな職業に就くことができず、以前は賎業(いやしい職業)とされていた金融業などに多く就いていました。ところが、時流に乗ることができたユダヤ人は経済的に成功します。例えば、ロスチャイルド家のように金融業で大成功をおさめた裕福なユダヤ人が一定数いたようです。時代は徐々に情報と金融を重視する第三次産業中心に変わりつつあったのです。富豪になっていったユダヤ人を妬む気持ちが、当時のドイツ人にもあったのかもしれません。

このようにドイツ人がユダヤ人を心良く思わない理由はたくさんありました。当時のドイツ人にあったこの反感をナチス、ヒトラーが利用したといわれています。彼らの財産を没収し、劣等種とレッテルを貼ることで貶め、殺戮することによってドイツ人の結束を固め、民族としての誇りを持たせようとしました。

もちろんホロコーストは許されざる行為であり、正気の沙汰ではありませんが、ナチスの党員や、彼らを支持したドイツ人が特異な存在であったとは考えづらく、ごく普通の愛国者であり、勤勉な労働者であったと思うのです。愛国の名の下に数多くの悲劇が生まれて以後の世界では、愛国心という言葉自体が危険な思想であるかのように扱われているように感じます。

誰かを傷つけたり貶めたりすることなく、自分の国や民族に自然な誇りを持つことができないのだろうか。

そして、同時になぜこのような悲劇が起きたのか、アウシュヴィッツに行ってからずっと考えています。

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About coper

会社員をしながらライターを目指すcoperです。 読んだ本、漫画、映画、アニメなどを考察して備忘録的に更新します。

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